コツコツ積み立てた学費を、「いらない」と拒否されて
主婦のサオリさん(55歳)が行動を起こしたのは、約2年前のことだった。担任教師から難関大学の受験を勧められていた娘が、進路志望を提出する直前になって、「大学へは行かない」と言い出したのだ。洋服のセレクトショップを開くため、アルバイトで資金を貯めるという。
「娘の突然の反乱に、目の前が真っ暗になりました。夫と何度も『店を開きたいなら、大学で経済学を学んだほうがいい』と説得したものの、娘は意見を曲げなかったんです。私自身は、経済的な理由で大学進学を諦めて就職した。だから娘には、いい大学を出て、選択肢を増やしてもらいたかったんですが……」
サオリさんは、娘が学業に専念できるように、たゆまず努力してきた。まず娘の誕生時に、満期300万円の学資保険に入った。小学校に上がってからは、塾の費用を捻出するために家計を切り詰め、12年かけて約100万円をコツコツ貯蓄。
「生鮮食品が4割引きになる時間帯を狙ってスーパーに行き、争奪戦を繰り広げました。自分の洋服は、数年に一度ファストファッションで購入するだけで我慢。友達からの食事の誘いをたびたび断ったため、疎遠になった人もいる。
そうしてコツコツ積み立てた学費を、娘からあっさり『いらない』と拒否された。そのときのむなしさといったら……。1週間近くベッドからほとんど出られず、家事どころか入浴さえできなくなりました」
さすがに心配になったのか、普段は午前様になろうが連絡しない夫が、「家族には、君の笑顔が必要だ」というこそばゆいメールを送ってきた。
「そのとき、『これって、わがままを言っても許される一世一代のチャンスでは?』と思いました。だけど、18年も娘中心だったから、『自分のわがまま』がすぐに見つからなくて」