お母さんにも自由な時間が必要

悩んだサオリさんは、自分が娘と同じ年齢の頃に書いた日記をめくってみた。実はサオリさん、小学生時代から日記をつける習慣があり、それらを押入れに保管していたのだ。

「高校3年生の私は、『世界各国を巡って、すべての国で友達を作りたい』と綴っていました。それを見て、この夢を叶えなくちゃ! とスイッチが入ったんです。旅の資金は、娘の学費まるごと。『使い切る勢いで、行きたい国を巡るぞ』と燃えました」

家族にその計画を伝えると、夫は「いいよ。お母さんにも自由な時間が必要」と、大賛成。娘にいたっては、「素敵な男友達を作って、女を磨いてきなよ」とけしかけてきた。
「不機嫌に寝込まれたことが、さぞ迷惑だったんでしょうね(笑)」

まず訪れた国は、友達が住むオーストラリア。そこで国内を案内してもらいながらひとり旅の注意点をしっかり学んで準備運動。次に別の友人を訪ねてアメリカへ飛び、できる限りひとりで行動してみた。

それからアジアに行き、象と触れ合えるタイ、食事をめあてにベトナム、大ファンの俳優チャン・グンソクのいる韓国などへ。8ヵ国を、約2ヵ月間かけて満喫した。

「お金を使う気まんまんで出かけたのですが、カリフォルニアの有名レストランで3万円のディナーを食べた以外は、贅沢しなかったなあ。節約癖が邪魔してできなかった、というほうが正しいですけど。屋台やスーパーの総菜を食べて、安ホテルに宿泊して。友達もたくさんできて、若い男の子とも交流してますよ(笑)」

帰国すると、夫と娘が玄関で出迎えてくれた。部屋は綺麗に掃除されている。そしてテーブルには煮物と鍋料理。「パパと作ったの。和食が食べたいでしょ?」と娘が笑う。

「2ヵ月の家出が、家族みんなを成長させたのかもしれません。私のほうが、ずっと娘に依存していたんじゃないか、と気づきましたね」

数日後、サオリさんは娘に、「あなたの夢を応援する。これはいざというときのお守り」と、学資保険の残りの100万円を手渡したそうだ。

「またいつか、ひとり旅をしたい。それに向けて、パートに出て旅費を稼ごうかな? と考えています」

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小さな一歩でも、勇気を出して踏み出すこと。それが、大きな「宝」を手にするためには大事なのかもしれない。

 


ルポ・私をラクにした 家族への「しない」宣言
【1】片道3時間、母の「通い介護」をするうちイライラが募り…
【2】「昼飯に好きなものも食べられないなんて」と嫌味連発の定年夫に反撃する日
【3】「大学へは行かない」娘の反乱を機に、張り詰めた糸がプツンと切れて