Uターンした地元の「アク」を消さぬよう
進学や就職を機に都会に出た人が、さまざまな事情で故郷に戻らざるをえなくなる。ときには夢破れ、大いなる挫折とともに……。映画監督になる夢を抱いて富山から上京した本書の著者も、そんな1人だった。6年間にわたる悪戦苦闘の後に帰郷した彼女は、母の経営する薬局で働きつつ、副業のライターとして地域の文化を発信していくことで初発の志をなんとか継続させていた。
保守的な地域社会で同郷の友人たちが実直な暮らしを営むなか、そこに染まりきれない著者は、ローカルメディアで地元の「アク」の濃さを魅力として紹介する企画を打ち出す。だが渾身のこの企画も、都会風の洗練を求める編集長によって打ち切りの憂き目に。
ならば自力でその続きをウェブで書いていく─この決断が、その後の彼女の人生を一変させることになる。
帰郷後の富山は、北陸新幹線の開業やコンパクトシティ構想の推進など大きな変貌の過程にあった。このままでは「アク」のない「どこにでもある場所」になりかねない。
地方都市が抱える課題がテンコ盛りになった状況のなか、地域の文化的拠点だった小さな映画館を守る運動がもちあがる。その運動を支えるのは彼女と同様、この町でささやかな文化活動を営む新しい世代の人たちだった。
地域社会に一歩踏み込んでみると、80歳になってもマイペースで生きるビリヤード場の女主人、木こりをしながら30年以上も地元で歌い続けるブルースシンガーなど、魅力的な人々もいる。
その生き方に勇気づけられ、著者自身も地に足が着いた生き方を少しずつ見つけていく。この本は他の場所で似た問題に直面する人たちにも、勇気と希望を与えてくれるはずだ。
著◎藤井聡子
里山社 1900円