イメージ(写真提供:写真AC)
いつまでも長生きしてほしい。しかし、親が長生きすればするほど、支える側の子どもも年をとるという現実がある。終わりの見えない長期介護のなかで、思いもよらない事態に見舞われた人たちを取材した。子育ても終わり、夫婦でのんびり過ごそうと思っていたサチコさん。弟の急死から始まった思いもよらない事態とは――(取材・文=島内晴美)

悪いことは重なるもので…

親が倒れてもとりあえずこちらが元気であれば、経済的な苦労は何とか克服できるかもしれないが、親より先に子どもが倒れてしまったら事態は面倒なことになる。

関西地方に夫婦で暮らすサチコさん(68歳)は、「どうしてこうなるの!」と叫びたくなるくらい、理不尽な思いにとらわれている。ようやく子育ても終わり、これからは夫婦のんびり過ごそうと思っていたのだが……。

「今年90歳になる母は8年前まで北海道で一人暮らしをしていましたが、高齢で冬場の生活が難しくなったので、82歳のとき家を売って老人ホームに入りました。元気でしたが、子どもたちに面倒をかけまいとする母の決意でした」

ホームでの生活が性に合っていたのだろう。元気な母は買い物に出かけたり、趣味の絵を描いたりと楽しそうにホーム生活を送っていた。サチコさんと、東京に住む上の弟夫婦が年に一度ずつ、交代で母親の顔を見に帰省。母は仙台で一人で暮らす下の弟のもとへ旅行することもあったという。

「そんな平和な時間も、下の弟の急死で終わりました。肺がんでした。一番若くてやさしい息子が親より先に逝ってしまったことで、母の体力も急激に衰えたように思います」

母の様子が気になったサチコさんだが、関西から北海道までの遠距離、そうそう頻繁には帰れない。悪いことは重なるもので、サチコさんの夫に大腸がんが見つかる。

「手術、化学療法、転移、また手術と、2年間は夫にかかりきりで、母に会いに行くことはできませんでした。上の弟が4年前に60歳で定年退職して、『これからは俺がもっと頻繁に帰省するから』と言ってくれたのでほっとしたのも束の間──」