(『あんぱん』/(c)NHK)
今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと、妻・暢さんの夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。第120回では、のぶと嵩が探し続けた「逆転しない正義」を体現したキャラクター「アンパンマン」が誕生しました。嵩を演じる北村さんにお話を伺いました。(取材・文:婦人公論.jp編集部)

最後にのぶが

<のぶの励ましや高知新報時代の上司、東海林との再会をきっかけに、嵩はアンパンを配る太ったおじさんのキャラクターを推敲し、ようやくアンパンの顔をしたヒーロー「アンパンマン」が誕生した。『あんぱん』初回の冒頭で描かれたシーンと重なる場面となった>

『あんぱん』では、のぶや伯父の寛さんなど登場人物全員にやなせさんの思いや言葉が散りばめられています。全ての役柄にアンパンマンのキャラクターがあてはめられている。誰か1人欠けても、柳井嵩はアンパンマンを描けなかった。母親の登美子も含めて嵩が出会ってきた全員が嵩にいろんな言葉を投げかけてくれる。その言葉を受けて、嵩は返していく。最後にのぶが嵩の手を引っ張ってくれて、初めてアンパンマンが出来上がったのだと感じています。

初回のシーンは、嵩が絵本のアンパンマンを描く場面でした。この撮影をした時には、先々のことがわからなかったので、とにかくやなせさんを模倣しようとお芝居をしました。120回で改めてこのシーンを撮り直したのですが、アンパンマンを見たときに、初回の撮影の時とは全く違う感覚になったんです。嵩として見ると、愛しさと、ここまでの苦しさと、今まで出会ってきた人たちの顔が浮かびました。

特に強く感じたのが、のぶと2人の軌跡です。のぶに常に尻を叩かれながら嵩は前に進んできたし、嵩がのぶの前に立つ瞬間もあった。史実ではやなせさんと暢さんは高知新報時代に出会いますが、嵩とのぶは幼なじみ。史実よりも長く一緒に過ごしてきたことになります。

<『あんぱん』初回は初期のアンパンマンが空を飛ぶ映像で始まった。仕事場でアンパンマンのイラストを描く嵩にのぶが明るく声をかける。今田さんと北村さんの老けメイクが話題を呼んだ>

初回のシーンについて、チーフ監督は「『あんぱん』をやりきる覚悟を見せるシーンだ」とお話されていました。120回ではもう一度お芝居をしましたが顔の角度も違いますし、初回のような老けメイクもしていません。

ただ、初回も120回も演技の根っこは全く同じ「やなせたかしイズム」がありました。やなせたかしをモデルにした柳井嵩を演じてきたので、育ってきたのはやなせさんそのものではなくて、よく似た違う花や草木だったということです。