景色を楽しみながら歩いていると、まるで夫と散歩しているような気持ちになった…(写真:stock.adobe.com)
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大阪・関西万博での一日

夫が脳出血で亡くなって、今年で3年になる。元気に野球やゴルフを楽しんでいた人だけに、知人たちの驚きは大きかったが、私自身は何もかもが急なことで、悲しむ間もなく手続きに追われて時が過ぎた。

私は子どもたち、孫たちに支えられて、だんだん日常生活に戻れるように。そして今年、生前に夫が行きたいと言っていた大阪・関西万博に、ひとりで行くことができた。

スマホの操作が苦手な私が、何事もなくチケットを予約できたのは、夫がそばで見守ってくれたからと信じたい。前夜は期待と不安でなかなか寝つけず、当日の朝も早く目覚めた。曇り空ではあったが、いよいよと思うと力が出て、足取りも軽い。平日だったので、心配していたほどの混雑もなかった。私は、一直線に大屋根リングへ向かう。大屋根は想像以上に壮大で、まだ新しい木目が美しかった。

このような素晴らしい建築物が造られたことに感動し、しばらく動けなかった。エスカレーターを上ると、眼下にはたくさんのパビリオンが建ち並び、万博に来たのだと改めて実感する。

景色を楽しみながら歩いていると、まるで夫と散歩しているような気持ちになった。足の速い夫はいつも先を歩き、私は後からついて行ったものだ。

その後、いくつかのパビリオンを夢中で回り、アメリカ館、フランス館など8館に入ることができた。それぞれに見応えがあり、良い記念になる。

気がつけばあたりは夕闇に包まれていた。私は再度、大屋根に上ることにする。朝とはまったく違う景色が広がり、何もかもが輝いて見えた。これまで見たどの夜景よりも美しい。私は思わず「きれい……」とつぶやいた。夫もきっと、一緒に見とれていただろう。

ふたりでよく展望台に上ったことを思い出す。万博の美しい景色を残しておきたくて、何枚も何枚も写真を撮る。帰りがけに見た、噴水ショー、ドローンショーも迫力がある。帰路につく頃には、足の疲れはあったが、多くの思い出を作れた喜びで心は満たされていた。

帰宅後、まず仏壇の前に座った私は無事に帰ってきたことを報告し、「ありがとう」と伝える。夫も喜んでくれたと思う。


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