
概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める飯塚恵子編集委員と、調査研究本部の伊藤徹也主任研究員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る
米国のトランプ大統領は、新しい国家安全保障戦略で、南北米大陸を中心とする「西半球重視」を打ち出した。米国第一主義はより明確になり、戦後の国際秩序は曲がり角を迎えている。日本をはじめとする同盟国はどう向き合うべきか。神保謙・慶大教授、小原凡司・笹川平和財団上席フェローを迎えた1月6日の放送を踏まえて、出演した飯塚恵子編集委員に聞いた。
ドンロー主義同盟国の覚悟
足元に回帰する米国
「米国の今の対外政策は、我々が慣れ親しんだ米国の姿とはかなり異なる様相を示している。地政学で言う『大陸国家』として勢力圏を確立しようとする発想が非常に強い」=神保氏
「米国の『西半球重視』は、中国から見ると嫌なことだ。中国は米国本土を常に牽制できる状態を作りたいと考えて、2010年代後半から中南米への影響力を強めてきた」=小原氏
伊藤トランプ政権は今年に入り、ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したり、デンマーク自治領グリーンランドの割譲を繰り返し迫ったりしています。マドゥロ氏の拘束では、米国の利益と軍事的な勝算が確実に見込めるのなら、力の行使も辞さない姿勢を示しました。トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を訴えてきましたが、一段ステージが上がってきています。
飯塚トランプ氏は昨年12月、第2次政権の国家安全保障戦略を発表しました。「トランプ版モンロー主義」を掲げており、米メディアは、トランプ氏のファーストネームと掛け合わせて「ドンロー主義」と名付けました。トランプ氏本人も気に入って使っています。モンロー主義は、米国が欧州に干渉しない代わりに、「西半球」への欧州の干渉を拒否する建国初期からの政策です。トランプ氏やバンス副大統領は、これまでも米国第一主義を主張してきましたが、国家戦略として正式に位置付けられました。ベネズエラへの介入やグリーンランドへの関心も「ドンロー主義」を反映しています。
伊藤モンロー主義は欧州の干渉を拒むものでしたが、「ドンロー主義」は中国やロシアの干渉を拒むものと言えます。トランプ氏は、ベネズエラは麻薬を米国に密輸する反米的な国家であり、原油を買ってベネズエラを支えている中国の影響力も同時に排除しなければならないと考えています。神保さんは、「『大陸国家』は国境を重視して、緩衝地帯を広げながら自国の安全を確保する」とおっしゃいました。米国の関心は米国の周辺に向かうことになり、そこから外れる地域への関心はさらに低下する恐れがあります。
飯塚そうした姿勢は鮮明になっています。トランプ政権は1月、国家安全保障戦略を軍事的な戦略に落とし込んだ国家防衛戦略を発表しましたが、中国が台湾海峡の平和と安定を脅かしていることには触れませんでした。国家安全保障戦略には台湾への言及がありましたが、抜け落ちており、同盟国の日本としてはとても心配です。
トランプ氏は4月に訪中を予定しており、習近平国家主席に配慮して表現を抑えたとも言われています。貿易やレアアース(希土類)など、経済のディール(取引)を進めるために、安全保障を取引の材料として使う懸念は拭いきれません。「ドンロー主義」はあくまでも「西半球」中心であり、少なくともトランプ氏本人の中では東アジアの安全保障への関心が下がっていることに注意する必要があります。