ウェブサイト『TASTE HONG KONG香港好味』より
世界屈指の“食の都”香港。老舗の味を守る店、復活した屋台、新世代のカフェ―多彩な食文化を飲み込んで今も進化を続ける街で、強い味方となるのが、香港政府観光局が公開したオンラインガイド『TASTE HONG KONG香港好味』だ。数年ぶりに香港を訪れた筆者が、この“お宝リスト”を手に歩いた最新グルメ散策を紹介する
(取材・文:ノンフィクション作家 平野久美子)

匂いと思い出

2026年1月、数年ぶりに香港を訪れた。ランタオ島にある香港国際空港から市内まで直通のエアポートエクスプレスを使うと、約30分で中心街へ。駅の構内から雑踏へ出て歩き始めると、甘く焦げた焼き肉や漢方薬や乾物の匂いが、湿った大気とともに鼻腔にはりついてくる。その瞬間、「戻ってきた!」という昂揚感がいつも体内にみなぎってくる。

街中に漂うローストダッグの香ばしい香り(写真提供:筆者)
上環一帯は歴史の古い漢方薬店が集まる(写真提供:筆者)

私はこれまでに何度香港を訪れたことだろう!とりわけひんぱんに通った1980~90年代は、海外留学から戻ってきた若者たちが、新しく香港の文化を模索してさまざまな分野で活動を始めていた。そんな彼等とすっかり意気投合し、香港のポップカルチャーや日本のサブカルチャーについて時間を忘れて語り合ったものだ。そのたびに、ビルの谷間に埋もれた茶餐廳(チャァチャーンティン・香港式の大衆洋食堂)や、坂を登り下りした先の隠れ家風の料理店に案内されて、叉焼飯(チャーシウファン・叉焼載せご飯)や琵琶鴨(ペイパーアープ・丸焼きにして開いた鴨)のほか、珈喱魚蛋(ガーリーユーダン・カレー味のつみれ鍋)のようなカルチャーミックスした地元の食を味わった。そのおかげで、“借りた場所 借りた時間”と言われたこの土地の歴史や、移民の旺盛な生活力などを食卓から学べたように思う。気心知れた仲間との会食は、唯一無二の愉しみだった。

変わりゆくもの、変わらぬもの

商業地が限られている地形からもわかるように、香港島や九龍半島の中心地では1平方キロメートルに数百の飲食店がひしめていてもおかしくはない。しかも店舗は道路に沿って並んでいるだけでなく、林立する高層ビルの中に下から上へと積み重なっている。さらにパワーアップした食都には個性的なカフェがあちこちに増え、漢方茶の古びたスタンドや体に良いデザート亀令膏(グワイリンゴウ・亀の甲羅と漢方薬の煮汁から作るゼリー)の店が目立たなくなっていた。

その一方、閉店したはずの小さなワンタン店や大排檔(タイパイトン・庶民的な屋台飯)が思わぬ場所で復活し、古き良き香港のノスタルジーに浸る若者たちで賑わい、急な階段を上りきった路地奥のスノッブなバーやレストランには、各国からのビジネスマンが集まっている。さらに、地下鉄の延伸によって郊外やその先の新界にも多くの飲食店が進出、新界エリアではアーバンアウトドアライフが楽しめるようになっている。変わったなあ、香港・・・私は街を歩きながら、自分のデータを更新する必要を強く感じた。

“お宝リスト”で名店発見

そこで大いに役立ったのが『TASTE HONG KONG香港好味』(テイスト香港)という名のデータベース(https://tastehk.discoverhongkong.com/en/restaurants)だ。香港政府観光局が、フランスの“コルドン・ブルー”と並び称される香港のエリートシェフ養成機関「中華厨藝学院」と共同編集したオンラインのグルメガイドで、250店舗を一挙公開している。どこも歴史と真心と変わらぬ品質を誇り、地元で愛され続け、いかにも香港らしい店ばかり。もちろん、気取らない茶餐廳も大排檔もリストアップされている。

ウェブサイト『TASTE HONG KONG香港好味』より

このリストの選定にあたったのは、一流ホテルの「マンダリンオリエンタル香港」や「カオルーン シャングリ・ラ香港」をはじめ、ミシュランの星を獲得したレストランのシェフを含む総勢50名以上の料理人たちだ。彼等自身が、何よりも長年のファンなんだろうな、と想像しながら店の写真やコメントを眺めると、掲載情報に親しみが湧いてくる。現在は英語版と中国語版だけだが、翻訳アプリを使って活用をしてほしい。

以下、簡単に使い方を説明しよう。

トップページから「neighborhoods」の項目をクリックすると、香港島、九龍、新界にある中心的な商業地ごとに、全体で18に区分した中からエリアを選択できる。そこから自分が宿泊している場所や出かけたいエリアに絞り込むと、たちどころに付近の店の情報が写真や地図とともに現れる。

または、「restaurants」の項目をクリックして料理のジャンルから店舗選びをしてもいい。広東料理、点心専門店、カフェ、茶餐廳(チャァチャーンティン・香港式の大衆洋食堂)、フュージョン料理、ファミリーレストラン、デザート専門店などからハラル料理までがリストアップされているので、その日の気分で決めるとよい。

エリアもさらに広がった

中心街の中環や尖沙咀よりも輪を広げていつも散策をする私は、今回、香港での観客動員数歴代1位を記録し、日本でも大ヒットしたアクション映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』の舞台となった九龍城塞跡地の公園を訪れた。リアルな撮影用セットを見学した後、『TASTE HONG KONG香港好味』を使って検索をしておいた付近のタイ料理や個性的なデザート店に向かった。案の定、グルメガイドのお薦めに外れはなかった。

映画セットの特別展も、九龍寨城公園内で2028年まで開催 (写真提供:筆者)
若者に人気のカフェが九龍寨城公園そばにもできた(写真提供:筆者)

後半は香港島の上環と西営盤方面へ。友人たちといつも出かける店で港式奶茶(ゴンシックナァイチャー・香港式ミルクティー)を飲みながら語り合い、さらに、新界の東側にある海鮮料理で知られる西貢まで足を伸ばした。名物の椒盬尿蝦(ジウイムライニョウハー・胡椒風味のシャコ唐揚げ)が、変わらぬ味だったことに、うれしさを覚えた。

西貢半島 (写真提供:香港政府観光局)

このように、洗練された中国料理から屋台飯や各国料理だけでなく都会に接近している海辺や山の名物料理も味わえる食都香港は、ますます進化の速度を速めていた。その熱量に触れるだけでも刺激的な旅になる。

さらに進化して食文化の魅力を世界に発信し続ける香港(写真提供:筆者)
シェフが選ぶグルメガイド「テイスト香港」
50名以上の一流シェフが250軒のレストランを厳選し、香港が誇る “本場の味”を紹介
https://tastehk.discoverhongkong.com/en