イラスト:大塚砂織

建物の修繕の必要性が叫ばれていた。しかし…

2018年9月3日朝、リオデジャネイロのブラジル国立博物館前で2万5000人もの国民がデモを起こし、周囲は騒然となった。2000万点に上る美術品、歴史的遺物が前日の火災によって一晩で失われてしまったからだ。

同館は植民地時代の1818年、ポルトガル王が自らの収集品を提供して設立。目玉は南米大陸最古とされる女性の頭蓋骨「ルチア」で、世界中の専門家から注目を集めた品だ。そのほか、ポルトガル人が初上陸した1500年から共和国が成立した1889年までの文化財、コロンブス上陸以前の貴重な品、化石や恐竜の骨、先住民族の工芸品なども収蔵していた。建造物の歴史も古く、ポルトガル王家がナポレオンの侵略から逃れてリオへ遷都した際には、宮廷として使用したそうだ。

専門家の間では、以前から建物の修繕の必要性が叫ばれていた。その懸念が正しかったことを物語るのが、出火当時の状況だ。館内にスプリンクラーはなく、なんと最も近い消火栓からも水が出なかったという。消防隊は近くの湖から給水したが、焼け石に水。6月に博物館の近代化計画の予算が承認され、10月には最新式の防火設備が設置されるはずだったが、手遅れに……。

ここ数年で政府の財政赤字が深刻化。特に2016年のリオ・オリンピック以降、博物館への予算も削られてしまった。国民が「政府は教育の分野に予算を使うべき」と声を上げるなか、政府は「管理をしていた大学の責任」、大学は「予算を配分しなかった政府の責任」とそれぞれ主張し、罪のなすりあいの様相だ。

マスコミは「歴史を大切にしない国には将来はない」と連日報道。かつて日本の友人が「永遠に未来の国」と揶揄した言葉が胸に突き刺さる。(サンパウロ在住)