『ぜんぶ本の話』池澤夏樹、池澤春菜・著

最高の本読み仲間になった親子の痛快な対話

父は文学者、娘は声優。父は、幼い娘にこの本をこう読みなさいなどと教えたことがなく、成長に手を貸した実感は薄いという。家にあふれる本を勝手に選んで読みながら育った娘は、昔だったら親子対談は断ったが(有名な人の娘だという理由で心ないことを言われてきたから)、父はやっぱり「最高の本読み仲間」だから対談することにしたという。両者の距離感も、タイミングもいい。

対談は、はじめての読書の話から。相性のよい児童文学にめぐりあえるかどうかは、その後の読書生活を左右する。本の世界に入り込む楽しさをいったんおぼえたら、あとはその魅力にひっぱられて次々に読むし、本から得られる「新しい視点」が自分をアップデートするのを実感でき、やがては読書で人生を豊かにできる人になる。

親子には30年の年齢差があり、はじめての読書体験はかなり雰囲気が違って当然だが、娘は「岩波ようねんぶんこ」、父は創元社の「世界少年少女文学全集」と、意外に近い。

子どもが家に閉じこもって本ばかり読みふけると「外で遊びなさい」と叱る大人もいるが、それは自分のカラに閉じこもった状態ではなく、むしろ広大な世界に自分を開いているのだから、止めてはいけない。読むのがおっくうになる本はあとまわし。好きなものを好きなように読むのが一番。と、親子の意見は一致する。

あとは、SFやミステリーなど、それこそ浴びるように読んできた筋金入りの本読みふたりによる、味の濃いブックレビュー大会がつづく。本に対する批評眼は、人から教わるものではなくて、読んで読んで読みたおして身につけるもの。突き抜けた人のもつ魅力が全開の、痛快対談でした。 

『ぜんぶ本の話』

著◎池澤夏樹・池澤春菜
毎日新聞出版 1600円