『フランス語っぽい日々』著◎じゃんぽ〜る西、カリン西村 白水社 1800円

幼児の姿も夫婦の口論もきわめてリアル

日本人の夫は漫画家、フランス人の妻はジャーナリスト。ふたりは日本で暮らしている。

結婚生活は、どんなカップルにとっても異文化の擦り合わせだけれども、育った環境や受けた教育がこれだけ違うと、擦り合わせるよりもまず驚きが第一に来る。そんな日常をコミカルに描いた本だ。見開きの左ページは夫が日常生活の一幕を漫画にし、右ページは妻がジャーナリストの視点でとらえた日本を書く。妻は日本語ぺらぺらだが、夫のフランス語は自称「中1レベル」で、ときどき猛勉強をする。

この本は、夫婦の第一子の赤ん坊時代から、お兄ちゃんになって小学校に上がるまでを描いているが、幼児の頃からお父さんのフランス語をバカにしたりして、お父さんは苦労が絶えない。しかしせっかくのバイリンガル環境なので、子どもとの会話は、妻はすべてフランス語、夫はすべて日本語にしている。その教育の成果も時を追って驚きの変化を見せる。(親の思いどおりにはならない)

こうしたコミックエッセイは共感ネタに頼った薄味のものが大半なのだが、この本の内容の濃さには誰もが満足するはず。幼児の姿や言動も夫婦の口論もきわめてリアルで、記号的に描いて「流す」ところがない。これが読者にとってはなによりもおもしろい。子どもの背中からオムツをのぞきこんで「うんちしたね」と(フランス語で)言う妻、大人の女性は身だしなみに気をつけるべきだと、脚に脱毛器具を当ててパチパチやっている妻。そのリアリティーこそが漫画の命だ。いっぽう妻の文章は、一歩引いた視点から日仏の文化の違いを分析する。顕微鏡的な夫と、望遠鏡的な妻。資質の違いが互いをひきたてている。

月刊誌『ふらんす』連載。フランス語学習者を励ます内容だが、フランス語には無縁の読者もたっぷり楽しめる。