(撮影:本社・中島正晶)
血の繋がらない子を引き取り育てた苦楽……。家族、人生に真摯に向き合ってきた女性たちの手記を、作家の山本一力さんはどう読み解いたのでしょうか(構成=篠藤ゆり 撮影=本社・中島正晶)

子どもへの無償の愛にひたすら感服

今回、3篇のノンフィクションをそれぞれ3回ずつ読み直しました。どの作品も重たい内容で、皆さん、書くにあたってはそれなりに腹を括っているはずです。自分が経験したことを言葉にして、多くの人に読んでもらうことによって、心を分かち合う。書くことで自分が救われる部分もあるのだろうな、と感じました。

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血の繋がりは関係ない。愛おしい3人の子どもを育てあげ」の里田愛子さん。まず思ったのは、なんと愛情深く、同時に潔い方だろう、ということです。

夫の連れ子2人と自分が産んだ子を、なんの分け隔てもなく育てている。それどころか、夫と離婚する際、まったく迷いなく血の繋がらない息子2人も連れていくわけです。その決意がすごい。子どもに対する無償の愛というか、男にはうかがい知れない女性の尊い本能を感じました。

息子たちのことを「高校を卒業して職に就いた」と書いていますが、この一言も心にずんと響きました。大学に行かせる余裕はないけれど、高校を卒業するまで一所懸命育てて社会に送り出した。さらっとしたひとことに、人生の苦労を感じます。

この作品を読んで、児童養護施設に我が子を引き取りに来る親は滅多にいないことを初めて知りました。引き取りに来てもらえたことは、この兄弟にとってどれだけ嬉しかったか。喜びの表現の仕方は長男と次男では違うだろうけれど、「おいでよ!」とどーんと構える里田さんに飛び込んでいった感じが、行間から読み取れます。そしてお兄ちゃんたちは、異母きょうだいの妹をかわいがっている。そういう関係を築けたのも、母親の力でしょう。

この筆者のもうひとつすごい点は、一行たりとも説教めいたところがなく、「自分はここまでやった」という感じもないこと。「当たり前のことをやっただけ。私がやらなきゃ、誰がやるの」といった芯の太さが感じられます。いわば昭和の肝っ玉母さん、といったところでしょうか。

その原動力はやはり、里田さんならではの深い母性愛なのでしょう。「子どもは宝だから、全力で育てなければいけない」という強い思いを感じました。

昨今は、子ども虐待のニュースが枚挙にいとまがありません。日本はいったいどうなってしまったんだろうと、暗澹たる気持ちになります。そんな状況で読むと、この作品では、子どもたちのその後についてはさらっとしか書かれていないけれど、こういう揺るぎのない母親に育てられた子は、自分たちが家庭を持ったときも同じように愛情深い家庭を築いていけるだろうなと思います。3人ともすでに結婚し、血の繋がっている娘さん家族は近くに住んでいる。母親を思ってのことでしょう。

それにしてもこの元夫、本当にとんでもない男です。「一緒に死んでくれ」だなんて、「バカか、お前は!」と諭したくなる。もしかしたら親の愛情をあまり受けず、不幸な育ち方をしたのかもしれません。でも、その夫との間に何度も子どもができているのだから、男と女としてのいい時間もあったのでは。夫婦のことは夫婦にしかわからない。そのあたりは人間の、あるいは男と女の不思議なところです。

ともあれこの筆者に対しては、「あっぱれな人生」と喝采したい。重たい内容だけれど、いいものを読んだという感覚が残りました。