存在理由
タキ オードリーさんには、アンネ・フランクの役の依頼が何度もあったんですって。けれど、彼女はずーっとノーと言ってきた。なぜならば、まず生年月日がほんの1ヵ月ぐらいしか違わない。
同じ1929年で彼女は5月、アンネは6月生まれ。で、同じような環境にいた。アンネは強制収容所で亡くなった。オードリーさんもオランダでレジスタンス運動の手伝いをしていた。
子どものほうが疑われずに、兵士に身体検査される恐れが少ないので、秘密の伝言を靴の中に忍ばせて届ける伝令役をしたそうよ。
だから、アンネ・フランクのことは「自分のことのようで、とてもじゃないけど私は語れないし、演じることはできない」とずーっと言ってらしたの。それが晩年、90年になって初めて、アンネ・フランクの日記を朗読したんです。
それは何か彼女の中で吹っ切れるものがあったんだと思う。まさし君が、「自分が歌ってこそ、さだまさしなんだって自分の存在理由がわかるような気がした」と言ってくれたように、オードリー・ヘプバーンさんも、ユニセフの大使になって初めて募金活動をしたときに、ものすごいお金が集まったんですって。で、「このために私は女優をやってきたんだ」と感じたというの。
まさし ああ、それは、すごく僕はよくわかります。東日本大震災のとき、音楽家なんて何もできない。だけど、支援コンサートをやろうといって西日本でやろうとしたら、本当にたくさんの人が寄付をしてくれた。コンサートにも来てくれた。
で、東日本大震災の被災地へ行って、例えば時間があったら歌いますって言うと、ビックリするほどたくさんの人が集まってくれた。
そのときにやっぱり、ああ、そうか、さだまさしというのはこういう役割なんだってことを僕は感じたし、それで「風に立つライオン基金」を作ろうというのも、実際はその辺から動きだしたのですよ。
だから、僕がさだまさしでなかったらば、まあ、平仮名のさだまさしなんてパスポート一つ取れませんから架空の人物なんですけど、その架空の人物に僕はなったから、架空の人物に対して皆さんが反応してくださるってことがよくわかった。おそらくヘプバーンさんも同じことを感じたんだね。なんて普通の人なんだろう。