中学・高校生時代に母が作ってくれたお弁当

お弁当にまつわる話がもう一つある。

それは某バラエティ番組に参加した時の話で、何人かの芸人とその母親も一緒に出演していた。

母親は息子が小さい頃に作っていたお弁当を再現して持って来ており、それを色々なタレントさんが見て、食べたいと思うお弁当を順に指名していく。

選ばれたら抜けていき、最後に誰のお弁当が残るのか? という趣旨の企画だった。

僕の母が提出したお弁当を見ると、本当に僕が中学生や高校生の時に食べていたお弁当そのままで、冷凍の唐揚げ、プチトマト、卵焼き、白いご飯、半分に切ったみかんなどなど、一切テレビ的な演出の入っていない、無防備なお弁当だった。

収録は進み、僕の母のお弁当はなかなか選ばれないまま、最後の2択にまで残ってしまっていた。

僕の母はこれまでにもしょっちゅうテレビに出演していたし、バラエティにも慣れていて、毎回驚くほど笑いをとって帰るので、正直、どう転ぼうが心配ないと思っていた。

そして、最後の判定でタレントさんが選んだのは母のお弁当ではなかった。母のお弁当は最下位になった。

選ばなかった理由を尋ねられたタレントさんは「冷凍食品が入っていて愛情を感じられない」と言った。

タレントさんも何か言わなければならないから、仕方なくそう理由を言ったのだろうし、悪くはない。

それを聞いて、「さあ母の面白いコメントが出るぞ!」と思いながら待っていると、どんな状況でも強気で笑いを振りまいてきた母が落ち込んでしまっていた。

いつもの笑顔が消えて、ただうつむいていただけだった。

これを見た瞬間、僕はヤバイ……と思った。確かに母はバラエティモンスターかと思うくらい面白い人だけど、芸人ではない。特にこういう母としての愛情を問われることに対してうまく返せるような強さは持ち合わせていない、一般の人だということを忘れていた。