(イラスト:ひしだようこ)
令和5年度版厚生労働白書では、2008年以降人口減少が続き、世帯規模や市町の縮小化が進むことで、家族や地域における支え合いの機能低下が懸念されています。さらに、地域では形式的なつきあい(会ったときにあいさつする程度)を望む人も増えており、人間関係が希薄化する中で、孤独・孤立の問題も大きくなっているとのこと。一方で、ご近所さんと仲良くしたくてもできない…そんな隣人トラブルを経験した人も少なくないのでは。ご近所さんによるまさかのふるまいに慄いた人もいて……。大窪友里恵さん(仮名・大阪府・パート・67歳)は、結婚当初入居したコーポで、上の階からの落とし物を届けに行ったところ――。(イラスト=ひしだようこ)

子ども言葉にイラッとして

結婚して最初に暮らしたのは、緑豊かな場所にあるこぢんまりとした賃貸用コーポラス。3階建てに9世帯が入居している。私たちの部屋は2階の端にあり、隣はおじいさんの一人暮らし。

敷地内に立つ大家さん宅の広い庭では、季節の花々が住民の目を楽しませてくれた。専業主婦だった私は、料理教室とアートフラワー教室に通っていたので、お菓子を作っては大家さんにおすそ分けするなどしておだやかな日々を送っていた。

半年経った頃のこと。部屋でアートフラワーの制作をしていたら、ベランダからカタンという音がした。見に行くと女性用のサンダルが片方転がっている。隣のおじいさんのものではなさそう。「上の階の方かしら」。引っ越し時に挨拶にうかがった、私より少し年上で感じのいい奥さんの顔が浮かんだ。

階段を上り、ベルを押すと扉が開いて、幼子を抱いた奥さんが出てきた。サンダルを片手に「これが落ちていたのですが、奥様のでしょうか?」と尋ねたところ、彼女は私を無視して「落っことしちゃったの~?おいたしちゃだめですよ~」と男の子に言った。

子は私にバイバイするのみ。私は「じゃあここに置いときますので」と玄関にサンダルを置いて帰宅。それきりしばらく忘れていた。