前に飼っていた猫たちは外に出したが、メイとテイラーは内猫だ。
メイが網戸を開けて、二匹が外に出たことが何度かある。それに懲りて、今は網戸をテープで留めてある。網戸の外は庭、その外は交通量の多い道だ。
初めて外に出ちゃったときは、心底あわてた。もう戻ってこないだろう、ひかれて死骸になってるだろうと悲観しつつ、庭に降りたら、すぐそこにテイラーがいた。むんずと首根っこを捕まえて、ぽんと家に入れた。無抵抗だった。おいおい、いつもの精悍なハンターぶりはどうした、しっかりしろや、血の出るほんとのネズミやスズメが取り放題なんだよとカツを入れたかったくらいだ。
メイは反応が激しかった。知らないニオイや触感や情報量の多さに驚愕したようで、平べったくなって草むらに隠れて、出したことのない低い声で「ナンジャコレハ、ナンジャコレハ」と唸っていて、ほとんど「タスケテクレ」に聞こえた。あたしも、テイラーのときとは違って、もう少し繊細に、メイやメイやと猫撫で声で話しかけながらすり寄っていって、そうっと捕まえた。
それ以来、テイラーのハンター性には疑問符がついている。むしろ真のハンターは、好奇心が強すぎて、どこでもドアをすいすい開けるメイじゃないかと思う。
そういえば、あるときメイがぴょんぴょんしてるから、何かと思ったら、ゴキブリをいたぶっていた。同じような動きをお風呂場でしてるから、何かと思ったら、ムカデと戦っていた。凝視するメイの視線の先に極小の何か、たぶんゴキブリがいたこともある。
あたしだって見かけによらずゴキブリは嫌いだから、遭遇すると、心で絶叫し、熱湯をかけたり洗剤をかけたりして、必死で息の根を止めたものだ。そしてゴキブリ捕獲装置を買ってきて家じゅうに仕掛けたものだ。
でも今は余裕である。おーラッキー、猫用おもちゃ発見、と思って、メイを抱いて現場に連れていくだけでいい。すると数時間後にはいなくなっている。たまに、脚が一本残っていることもある。
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米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。
週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。