(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬2匹(クレイマー、チトー)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「リリー、リリー」。「かき撫でつつ養う」の回でペチュニアへの愛を語った矢先、数日間留守にしたことで全滅しかけたそうで――(画=一ノ関圭)

この夏、あたしはユリに狂奔している。

あたしはこないだウェブ版の「猫婆犬婆」で「ほんとはこういう小さい花の草花が好き。繊細で地味な花が好き」と言ったんですけど、その舌の根の乾かぬうちに、ユリという大輪な上にも大輪の花に、うつつを抜かしていたのだった。そもそもあたしはそのとき「今、ペチュニアをかき撫でている」とも言ってペチュニアへの愛を語っていたのに、そっちの舌の根もまるで乾かぬうちに、ペチュニア、全滅しかけたのだったった。

数日間留守にしたとき、折からの暑さと渇きにやられ、帰ったときには死屍累々。犬猫の世話は人に頼んでいったが、水やりは頼み忘れた。あわてて深いどんぶりや洗面器やバケツをかき集め、上からざあざあ水をかけ、二、三日水に浸けっぱなしという荒療治の結果、五鉢のペチュニアが、三つはなんとか蘇り、二つは蘇らなかった。諸行は無常。

さて、ユリです。芽が出始めたのが三月の終わり。それからゆっくり成長して、花芽をつけて、六月一日になると最初の蕾が今にも破れんばかりにふくれあがり、やっと開いたのがさらに三日後。見れば、どすんと大きいテッポウユリだった。

数個の鉢から茎が伸び、一本の茎から五つか六つか七つくらい花が咲いたから、二週間ばかりテッポウユリが咲きみだれ続けた。少し遅れて別の鉢で「あたしを見ろ」圧のすごいピンクのオリエンタルハイブリッド(ヤマユリ系のユリ)が咲き始め、二週間くらい咲きみだれ続けた。それから肉厚な黄色いオリエンタルハイブリッドが咲きみだれ続けた。それからカサブランカ、しかし花屋で買ってくるのよりはヤマユリに近いような白いユリが、庭の隅や垣根の間の思いもかけなかったところから頭を突き出して(日光をほしがっているのだ)、ぽぽぽといくつも咲いた。数が多いから、二週間どころじゃなく咲きみだれ、咲き続け、今も咲いている。

咲いてるのには理由があります。あたしが植えたからだ。