その頃には、鉢という鉢に植え尽くしていたので、庭(隙間なく植わってるか生えてるか)をほじくり返し、ユリは半日陰でもOKと何かに書いてあったのを信じて、もうそういうところしか残ってなかったから、そういうところに適当に植えた。でも半日陰でOKなのは違う種類のユリだったと思う。出てきた芽が、必死の形相で日光をほしがっていたので、掘り上げて、やや日当たりのいいところに移したが、やはり全身で日光をほしがって、茎は地面を這うように伸び、花は地面に突っ伏しているように咲いた。
そもそも日当たりの悪い庭なのだった。鉢植えにして伸びた茎もぐいぐいと太陽の方を向きたがるので、日当たりのいいところに動かしているうちに、ついに垣根を越え、道路際に出てしまった(あたしが動かした)。それで今、あたしの家の前には、昭和の下町の裏通りみたいに、公共の道にはみ出して植木鉢が並べてある。
並んでいる鉢は、ユリたちの他にも、ニオイゼラニウム。チェリーセージ。ユーフォルビア・ダイヤモンドフロスト。
それから園芸屋で売れ残っていた伸びすぎたバジル。食べるのを忘れて、花芽を摘まないで、思いっきり花を咲かせてみたかった。シソ科の地味な花がいっぱい咲いた。
それから生協で種を買ったクレオメ。あたしにとっては、ザ・昭和の記憶にある花なのだ。どうせなら漬物の名前の書いてある発泡スチロールの箱に植えたかったけど、なかったから、プラスチックのプランターに適当に蒔いて、日を当てて水をやったらちゃんと育って花を咲かせた。ピンクでひらひらして、派手なのか地味なのかわからない不思議な花である。クレオメと呼んでいるけど、和名は西洋風蝶草。まったく風の蝶の花みたいだと、毎日見るたびに考える。
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米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。
週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。