(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬2匹(クレイマー、チトー)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「バレエ始めました」。縁あってバレエの見学に行きその足ですぐに入会。でもその数日前に追突事故にあっていて――(画=一ノ関圭)

バレエ始めました。

始めた理由は人との出会いにまた出会い。きっかけなんて、いつでもそんなものだ。

ここのところ仕事が山積みで、ストレスも山積みで、ジムにもズンバにも行かなくなっちゃって、運動が足りてなかった。山は歩くが、歩いて動かすのはほぼ下半身。肩はギシギシ、背中もギシギシ、何をするにもどっこいしょで、ああこのまま老いていくのだなと考えていた。

その上近くの友人たちが、どんどん病気になる、亡くなる、遠くで名前だけ知ってるような人たちも病気になる、亡くなる。生きてるのは谷川俊太郎さんだけ、みたいな、頼りない状況だったのである。

そんなとき、久しぶりに会った七十代の友人に「バレエ始めたのよ、ひろみさんもどう?」と言われたちょうどそのとき、バレエの先生がそこに来た!それが熊本の伝説的なバレエの先生で、これも縁だ、見学に行ったその足で入会した。実はその数日前に、あたしは追突事故にあったのだった。車はひしゃげ、後で痛みが出ますよ、とあたしはいろんな人に言われた。整形外科に行ったら痛み止めとなんとかとなんとかを処方されて、明日整体の予約が入ってるんですが、と言ったら「キャンセルしましょう」と。バレエ始めます、と整形外科の先生には言わずに始めた。