バレエの先生に「そのままの格好でいいのよ」と言われて、のびちぢみするパンツといつものシャツで、おそるおそる行ったのは、バーのある鏡張りのスタジオで、生ピアノだった。クラスは四十代から九十代の十数人。どの人が九十代か、初日はぜんぜんわからなかった。みんなほぼ同じような格好で、みんなマスクをしていたからでもある。

バレエ、あたしは一度もやったことがない。娘たちもやらなかった。しかしバレエのことは、かなりよく知っている。というのもバレエ漫画を読みまくってきたからだ。

一九六〇年代から、バレエ漫画には事欠かなかった。こないだ復刊した『バレエ星』とかそんなのである。やがて有吉京子や萩尾望都や槇村さとる、『昴』や『絢爛たるグランドセーヌ』や『ダンス・ダンス・ダンスール』……。

でも、なんといっても山岸凉子の『アラベスク』と『舞姫 テレプシコーラ』。この二つはなめるように読んだ。読んでも読んでも読み足りなかった。そして今、あたしは、六花ちゃんや空美ちゃんがやってたようなバレエをやってるのである。

最初のクラスでやったのは、1番と5番とプリエだった。

1番とは足を一八〇度に開くこと。5番というのは1番の足を開いたまま交差して、両方の踵と爪先を並べること。そしてプリエとはスクワットのこと(後で間違いに気づいたのだが、ここはそのとき感じたままに)。