(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬2匹(クレイマー、チトー)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回はズンバ始めました」。前回から始めたバレエのクラスで自分の体に対する不満がたまり、はっきりと自分でわかる動きをしたいと思うようになりズンバを始めてみたとのことで――(画=一ノ関圭)

バレエを始めましたと言ったその舌の根も乾かぬうちに、ズンバ始めました。

バレエ、やめる気はさらさらない。お月謝は毎月引き落としにしちゃったし、あのふわりとした動き方、あれを体得したいし。

クラスは三回受けて、二回休んでまた三回受けた。でも先生の言うことがまだほとんどわからない。前半はストレッチだが、ただのストレッチと思うなかれ。生ピアノで、バーを使い、語彙もフランス語だ。

ストレッチが終わったら踊りをやる。それが『パ・ド・カトル』。一八四五年に初演された歴史的な名品ですよ。

しかし「カトル」だから四人のプリマが踊るべきところを十二人でやるからごちゃごちゃである。動き方のわかってない人がいるからさらにごちゃごちゃである。中でもあたしは誰よりぐちゃぐちゃである。

アンオーやプリエやパカパカ(と先生が言うが何なのかわからない)やグリッサードやグラッサージュやキャラメリゼ、おお、なんか違う分野のフランス語が混じってしまったではないか。

あたしの踊るパートに「グリッサードそしてアラベスク」というのがある。それがとんでもないのである。プロのやってる『パ・ド・カトル』をYouTubeで見てみた。とんでもなかったのである。三百年やってたってこんなのできっこないのである。