先生によると(以下をニコニコと婉曲に伝えてくれる)、あたしは、年にしてはまあ動けるが、動かし方は大間違いで、動かすべき筋肉を動かしてない。動かすべき筋肉を動かして鍛えることが、やがて来る(もう来てるのだが先生は言わない)尿漏れや骨粗鬆症や大腿骨の骨折等の加齢の問題にとっての転ばぬ先の杖なんですよ、と。

先生によると、あたしの足は外側に傾いている。それで膝を曲げてまっすぐ足を持ち上げることができない。言われてみたらほんとにそうだ。あたしの靴はいつも外側に傾いた癖ができる。その上、肩もひしゃいでいる。体もしっかりひらけてない。腰を揺らさずに回せてない。てな問題点を、クラスの間は必死で気をつけて保っていても、長年の習慣とは怖ろしい、しゃがんで靴を履いて立ち上がるときにどっこいしょと声が出る。一歩外に出るとずるずると足をひきずる。

「ひろみさん、大股で歩いてねー」と先生の声が追い打ちをかける。

うむ(歩き方を直し)、この年になって歩き方から変えねばならない。でもそれが今の自分には必要なことだと思える。これを続けていれば、あと二十年は保つような気がする。とか言ってたら、ぎゃあ、背中がぐぎーーっっっ。比呂美絶体絶命。待て次号。


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米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。

週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。