視聴者の心も掴んだ劇中の歌唱シーン

現時点までの最大の見せ場も歌だった。スズ子が11月10日放送の第30話で和製ジャズ「ラッパと娘」を披露したシーンである。スズ子は大阪の梅丸少女歌劇団(USK)から東京の梅丸楽劇団(UGD)に移っていた。 

劇中、スズ子の歌に会場の日帝劇場(モデルは帝国劇場と日本劇場)は沸きに沸いた。視聴者の心も掴んだようで、個人全体視聴率は番組最高の9・5%(世帯視聴率16・3%)を記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

珍しいことだった。ヒット曲でもない限り、劇中の歌唱シーンはウケないというのがドラマ界の定説なのだ。しかもスズ子による「ラッパと娘」は長く、15分の放送のうち3分以上あった。

この楽曲の作詞・作曲は物語内では羽鳥善一(草なぎ剛)が行ったことになっているのは知られている通り。その羽鳥のモデルである服部良一さんによる原曲の良さもあるが、趣里による歌と踊りが出色だったから、観る側は目が離せなくなったのだろう。

このシーンの前もスズ子は自分自身の傷心や悲しみを歌うことで乗り越えてきた。実母だと信じて疑わなかった花田ツヤ(水川あさみ)と血縁がないと分かったことや、USKの先輩・大和礼子(蒼井優)の死である。どちらも衝撃的だったが、スズ子は堪えられた。これも歌の力だった。