コメディエンヌとしての資質

スズ子を演じている趣里は幼いころから長くクラシックバレエをやっていたので、もとから踊りには定評があった。半面、歌は未経験。ここまで上達するまでには相当の努力があったはずだ。

写真提供◎AC

両親から才能を受け継いでいるということもあるだろう。母は元キャンデイーズのメインボーカル・伊藤蘭(68)。大みそかには『NHK紅白歌合戦』にソロシンガーとして初出場する。父の水谷豊(71)は俳優のイメージが強いが、松本隆氏(74)が作詞し、井上陽水(75)が作曲した「はーばーらいと」(1977年)などをヒットさせている。今さらながら、趣里はスズ子役にうってつけだった。

女優としての趣里には伊藤より勝るのではないかと思わせる一面すらある。コメディエンヌとしての資質だ。

たとえば32回。スズ子がUGDの演出家・松永大星(新納慎也)から日宝行きを誘われた際、プロポーズと早とちりしたシーンだ。梅丸は松竹で、日宝は東宝をそれぞれモデルにしている。相容れようがないライバルである。

「僕と一緒に日宝に行かないか」(松永)、「はい、喜んで! エッ?」
セリフの言いまわし、表情、間の取り方が絶妙だった。笑えた。泣かせる演技は悲しげな表情で苦労話をすれば何とかなるが、笑わせる演技は難しい。趣里にはそれが出来る。

33回。日宝への移籍を阻止しようとするUGDの制作部長・辛島一平(安井順平)から逃げたシーンもクスリとさせられた。秋山美月(伊原六花)と暮らす2階の自室から隣家にヒョイと飛び移った。動物的のような身のこなしだった。あとを追った辛島は地上に転落するというのがオチ。松竹と同根の松竹新喜劇のにおいを感じさせる一幕だった。