真吉が、唖然とした顔で言う。
「テキヤがいなけりゃ祭じゃない。そうですよね?」
日村はそう尋ねられてこたえた。
「警察の指導があったそうだ」
それを受けて、テツが言った。
「都の排除条例の、祭礼等の措置ですね」
日村はうなずいた。
「地元の町内会からも申し入れがあったそうだ。だから、今年は町内会の人が露店を出すそうだ」
「でも……」
稔が戸惑った様子で言った。「明日行くのは、神社じゃなくて寺なんですよね」
日村は説明した。
「神主から、その寺のことを聞いたんだ。神社だけじゃなくて、寺も苦労してるって……」
「寺の縁日からもテキヤが追い出されるという話ですか?」
「そうじゃない。無縁墓の話とか、鐘の話とか……」
「無縁墓……」
説明するのが面倒臭くなってきた。
「とにかく、だ」
日村は言った。「神社や寺を立て直すって話じゃないから、変な期待をするな」
健一が言った。
「自分ら別に、期待なんてしてません」
嘘つけ。そう思ったが、日村は何も言わず、いつもの一人掛けソファに、どっかと腰を下ろした。