義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


午後四時頃、事務所に戻ると、日村は奥の部屋をノックした。
「日村です」
「おう、誠司か。入んな」
「失礼します」
日村を見ると、阿岐本は尋ねた。
「それで、神社はどうだった?」
「いろいろと話をうかがってきました。近くに寺があり、そこでも住職から話が聞けました」
「ほう……」
日村は、できるだけ詳しく、神主の大木や住職の田代から聞いた話を、阿岐本に伝えた。阿岐本は、ただ黙って話を聞いている。
日村が話し終えると、阿岐本は言った。
「そうかい。国が滅びるかい」
「西量寺住職の田代さんは、そうおっしゃっていました」
「面白いじゃねえか。その坊さんに会ってみたくなったな……」
つまりこれは、何が何でも会いにいくという意味だ。
「明日、アポを取っておきますか?」
「ヤクザがいちいちアポ取るのか」
「出入りじゃないんで……」
「いいよ。縁を計ってみようじゃねえか」
「縁を計る……? どういうことですか?」
「行ってみて会えなきゃ、それだけの縁だってことだ」
「わかりました」
「明日、十時頃にここを出発する」
「稔にそう言っておきます」
礼をして部屋を出ようとすると、阿岐本が言った。
「公園から子供を追い出すだって……?」
日村は足を止めた。
「は……?」
「祭からテキヤを追い出し、公園から子供を追い出し、この国はいったい、何をやろうとしてるんだ?」
話がでかい。やっぱりオヤジは、あの住職に似ている。日村はそんなことを思って、部屋を出た。