淡々と暮らしていた21年の夏、久しぶりに会った男友達が「子安宣邦という思想史家の市民講座が楽しみなんだ」と言うのを聞いて、何かを感じました。それまでカルチャーセンターで行われる文学講座などに誘われても乗り気にならなかったのにと不思議でしたが、今にして思えば、すでに運命の歯車が回り始めていたのかもしれません。
まずは先生の著書を読むことから始めました。最初は難解に感じたものの、読むほどに大切なことを学ばせてもらったという感慨を覚えるようになり、講座に参加してみたいと行動開始。初めての受講は2021年の10月でした。
帰りの電車の中で、素晴らしい講義だった、88歳になっても現役で自分の仕事を続けている子安先生って素敵だな、と思ったのを覚えています。
触れた手の温かさに心動いて
2度目に講座へ出向いた時には、前回欠席していた友人が先生を紹介してくれました。私の顔を見るなり「あなたでしたか」と言って満面の笑みを向けてくれたのが印象的。
後で知ったところによれば、私が講座を受けていることを友人が先生に伝えていたのです。なんと『疼くひと』を読んでくれていて、「あの作品には人間の生の本質が描かれていましたね」と感想を述べてくれました。
女性の「性」をテーマにした小説をこんなに真摯に受け止めてくれる男性が日本にもいたのかと嬉しかった。その後、懇親会に招かれ、「喜んで!」と返した私の声は弾んでいたと思います。