昭和の良かったことを芝居の形で伝える

ウチの親父は基本的に上品な人ではあったんですけど、お酒を飲む時は洒落たお店ではなく街の立ち飲み屋さんで飲むのが好きだったんです。母親から言われて、まだ小さかった僕が親父を迎えに行くと、お店の方が器からこぼれて下の受け皿に酒がたまるくらい酒を注いでくれているんです。それを見て、親父が皿にたまった酒も器に移し替えて楽しそうに飲んでいる。今から思うと、器からこぼれた酒がプラスアルファのサービスで、それを受けていた父親はそれがうれしくてお店に通っていたんだろうなと。

90歳を超えてそこの意味が分かったというか、血が通ったというか。筋トレと直接的には関係なさそうな領域ですけど、こんなこともあるんやなぁと思っています。

そうなるとね、また仕事の欲も出てくるんですよ。今の世の中、電車に乗ってても、年寄りや妊婦さんが立っていても平気で優先座席に座っている若者も多い。僕はイタリアが好きでよく行ってるんですけど、イタリアだったらすぐに「こちらにどうぞ」と声をかけてくれます。レストランで年寄りがくしゃみをしただけで「大丈夫ですか」と誰かが来てくれる。でも、日本ではそれができない人も多い。

これはね、親が教えてないからだとも思うんです。古いことを押しつけるわけではないですけど、昭和の良かったことはきちんと伝える。親を大切にする。年寄りをいたわる。人にやさしくする。そういうことを芝居の形で伝えていけないか。それを今は考えています。

僕は日本舞踊もずっと学んできたし、おばあさん役が得意でもあるので、おばあさんの姿で伝えるべきことを伝える。おばあさんは家族の中でもとりわけやさしい役割を担うことも多いし、僕がおばあさんの役をすることで、芝居としての妙味も加わってさらに伝わりやすくなるならば、意味はあるのかなと。

それがドラマでも、CМでも、どんな形でもいいんですけどできたらなと。今はそんなことを思っています。

話をしてたら、またどんどん力が湧いてきましたよ!これはね、なんとかしてやりたい。そのためにも、まだまだ元気ハツラツでいたいと思っています。

「おばあさんの姿で伝えるべきことを伝えたい。そのためにも元気ハツラツでいたい」と意気込みを語る大村崑さん(撮影◎中西正男)

 

■大村崑(おおむら・こん)
1931年11月1日生まれ。兵庫県出身。本名・岡村睦治。20歳前に肺結核に罹患したことをきっかけに、好きな道に進もうと演芸の世界へ。53年に大久保怜に師事。黎明期のテレビを舞台に「やりくりアパート」「番頭はんと丁稚どん」「頓馬天狗」などで圧倒的な人気を得る。60年に結婚。「オロナミンC」などのCМでも一世を風靡する。以降、役者として大河ドラマ「西郷どん」など数多くの作品に出演する。2023年公開の映画「SPELL~呪われたら、終わり~」に主演し日本の映画で最高齢の主演男優となった。「舞昆のこうはら」(本社・大阪市)のCМキャラクターを務めている。