「瑤子さんのあの決断がなければ、《元気ハツラツ!オロナミンC》の大村崑はいなかった。」(崑さん)(撮影:霜越春樹)
結婚62年になる大村崑さん、岡村瑤子さんご夫妻。夫は若い頃から病気がちで虚弱、妻は背骨を骨折するなど、決して健康とは言えない状況でした。ところが、筋トレを始めたとたん、体に変化が表れて──。(構成=野田敦子 撮影=霜越春樹)

<前編よりつづく

妻の家出で僕は変わった

 瑤子さんの好奇心と決断力にはかなわへん。撮影用のクレーンに乗ってたときも驚いたけど、そう感じたことが、実はもう1回あってね。

瑤子 いつのこと?

 「オロナミンC」のコマーシャルを依頼された時のこと。僕が主演していたドラマ『頓馬天狗(とんまてんぐ)』では、「姓は尾呂内(おろない)、名は南公(なんこう)」というオロナイン軟膏をもじった決めぜりふが人気やったでしょう。

瑤子 でも、女優の浪花千栄子さんが現れて。

 製薬会社の社長に「私をCMに使ってください。本名を聞いたら、びっくりしますよ」と言ったらしくてね。社長が「浪花先生、お名前は?」と尋ねたら、「南口(なんこう)キクノです」「軟膏、効くの!? ぜひ、お願いします!」となって、彼女がホーロー看板に採用されたの。僕は、『頓馬天狗』であれだけがんばったのに、とガックリ。

瑤子 その後すぐに、同じ会社からオロナミンCのCM依頼が来たのね。

 企画書を見たら、「元気ハツラツ!オロナミンC」と書いてあった。でも、肝心の僕はちっとも元気やないの。会社の部長さんに「やりません」と断ったら、次は専務が来た。それでも断ったら、今度は副社長が来た。

これが、押しの強い人でね。「やるか、やらないか、どっちですか?」と迫るから、今度こそはっきり断らなあかんと、大きく息を吸って「やりませんっ!」と言おうとした瞬間、横からあなたが「やらしてもらいます!」。え――って。

瑤子 契約の条件がよかったのよ。(笑)

 「何てことしてくれるねん」と思ったけど、瑤子さんのあの決断がなければ、「元気ハツラツ!オロナミンC」の大村崑はいなかった。

瑤子 少しは、感謝してよ。