(崑さんInstagramより)

 感謝してますよ。大事にしてるでしょ。大事にしないと、あなたは出ていってしまうし。

瑤子 家出のこと? あれは、結婚から10年後だったかしら?

 大きな事件でした。夕方になっても、あなたは帰ってこない。慌ててあちこち探し回ったら、すでに飛行機でアメリカに向かっているとわかった。その後、置き手紙とカセットテープが見つかってね。息子2人とテープを聞いたら……。

瑤子 「お母さんは、もう帰りません。お父さんと仲良く暮らしてください」。もう自暴自棄になって、身の回りのものだけ持って、飛び出してしまった。

 子どもたちはギャーッと泣き出すし、どうしたらええのか。

瑤子 私は、趣味のアマチュア無線で知り合ったアメリカ人のお宅にお邪魔していました。

 瑤子さんは英語がペラペラやから。数日後に何とか連絡がついて空港に迎えに行ったら、ごっつい牛みたいなのを抱えて帰ってきたでしょ。あの牛、何だったの?

瑤子 バッファローのぬいぐるみ(笑)。向こうで誰かにいただいたのかな。

 その夜、ホテルでじっくり話し合いました。あなたは「夫婦の会話がないのがつらい」と。

瑤子 あの頃は、お義父さん、お義母さんだけでなく、お弟子さんやお手伝いさんもいて大所帯やったでしょ。あなたは仕事が忙しくて家にいないし。他人さんばかりの中で孤立してたのね。お義母さんが、息子たちを昔の流儀で育てようとするのもつらかった。

 お袋にきついこと言われて、台所で泣いてたもんね。僕も頭にきて「おばあちゃん、ここは大村家なんです。大村家を管理している瑤子さんの言うことは、僕の言うことと同じです。彼女に従ってください」って言ったもんです。

瑤子 あなたはいつも味方してくれた。

 恥ずかしい話やけど、あなたが家出した時は、のたうち回ったよ。夜も眠れない。飛行機は無事に着くやろか、もう一度会えるやろか、と心配で心配で……。あなたをもっと大事にしよう。自分を変えようと決めました。

弟子や手伝いの人に家を出てもらって家族だけになって、僕も食器を洗ったり、仏様にお水を供えたりと積極的に家事を手伝うようになった。あの事件がなければ、今の僕たちはないね。

瑤子 そうね。