大学進学、就職、そして結婚。子どもが大人になるにつれ、母親としての役割は薄れていくはず……と思いきや、子どもの人生に関わっていたい、関わらなくてはならない、と考える母親たちがいます。今回は大学生の娘の成績まで気にする母の声です。(取材・文=樋田敦子)

成績表は、娘よりも先に開封

今や一世帯に子どもが1、2人しかいない少子化社会。大事な子どもを守ろうとするあまりか、親は過保護や過干渉になる傾向が強い。そのため近年、多くの大学で保護者を意識したサービスを行うようになっている。

学生の成績表を保護者へ送付するほか、授業の出欠状況をICチップ内蔵の学生証で読み取り、専用サイトに登録、IDや学籍番号などを入力することで保護者がその履歴を見ることもできる。栄養不足を心配する親たちの気持ちを考慮し、無料あるいは低価格で朝食を提供している大学も。学食で専用のパスカードを使って食事をすれば、何を食べたかを保護者に知らせるサービスもあるのだ。

中学、高校同様、大学で「保護者会」があるのも今や当たり前。保護者会では、大学そのものの説明や学生生活の紹介ののち、「就活説明会」が行われるのが通例だ。そうした流れもあり、子どもが大学生になっても「子離れできない」という母親が増えている。

「放任か、過干渉かと問われれば、明らかに後者です」。そうきっぱりと話すのが、薬剤師の吉沢明美さん(53歳・仮名)だ。

同居する2人の娘たちと映画、ランチ、海外旅行……。社会人の長女(26歳)とは、スポーツジムで同じパーソナルトレーナーについて体を鍛え、大学生の次女(22歳)とは家のお風呂に一緒に入ることもあるという。

毎朝、娘たちのためにまず行うのは弁当作りだ。唐揚げ、煮物など、彩りの良い手作りの総菜が入った弁当を心がけている。薬剤師という職業柄、体に入るものは安全でなければいけないという信念があり、冷凍食品や出来合いのものは使わない。

「娘が高校時代に、“あの子はお弁当の中身が全部冷凍食品でかわいそう。私はママが作ってくれるものでよかった”と言っていたことが心に残って、今でも娘たちに必ず持たせています」

娘たちの洗濯や掃除も吉沢さんが一手に引き受けている。

特に気になるのは、自分と同じ薬学部へ進んだ次女。勉強内容や大学の様子が「つい、気になってしまう」。授業や部活など、娘のスケジュールはきちんと把握していて、「テストの2週間前だから、そろそろ勉強しなくちゃね」と促す。休日には近所のファミリーレストランへ一緒に行き、娘は試験対策、吉沢さんは新しい薬や治療方法の勉強を、母子向き合ってすることもある。長いときには10時間にわたって、3軒のファミレスをはしごした。

大学から年に2回郵送されてくる成績表は、娘よりも先に開封。

「薬学部って本当に勉強が大変なのです。単位の未認定があるのは留年の始まり。留年しないでね、という気持ちで毎回成績表をチェックします。娘も嫌がらず、“難しかったと言っていたのにS評価でよかったね”とほめると喜んでいますよ」