中国地方に住むかおりさんの実母は、90歳を超えても元気だった。それでも高齢の母親が気がかりで、仕事の合間を縫ってかおりさんは毎月会いに通った。

「ぎりぎりでやっていたので、新幹線代も正直痛くって。そんな私の窮状を知ってか、母は交通費とお小遣いをくれた。葬式や墓石までも自ら手配してから、3ヵ月だけ入院し、94歳で他界しました」

後始末をして逝った母と、周囲に身を委ねるしかない義母。2人の母の終活の違いを感じたが、こればかりは意のままにならない。結局、義母は意識が戻らないまま4年後に亡くなった。

介護費用の総計は、夫が負担した分だけでも600万円以上。これに入居の初期費用などを含めたら、2000万円近い計算になる。破産の危機を感じたことはなかったのだろうか。

「払えなくなったらどうしようと夫婦で話し合ったことはあります。『そのときは、胃ろうをやめて死んでもらうしかないわね』と冗談めかして言い、笑い合いました。もちろんそんなことはできないけれど、そうやってつらいことを笑いに変えるしかなかったのです」

想像を超える介護を終え、72歳の夫とともに、今も働き続けるかおりさん。「私たちが介護される側になっても、なるようにしかなりませんね」という。

 

自分の老後資金も心配。独身者の悩みは……

独身で親の介護にあたる人にとって、負担と不安はより大きいものなのかもしれない。

東京都在住の会社員、鈴本幸子さん(57歳)は、母親(89歳)と二人暮らし。年相応のもの忘れはあるものの、幸子さんが不在の昼間は、母親一人で生活ができていた。

変化が見えたのは昨年末。幸子さんが近所のスーパーに出かけて戻ると、母親がドアにチェーンをかけてしまって入れない。電話をしても、大声で「開けて」と叫んでも反応がない。母親は状況を呑み込めていなかった。

今年の2月に入り、仕事で夜半過ぎに帰宅してようやく布団に入った幸子さんを、母親が「苦しいの、助けて」と揺り起こした。

「便秘気味であることはわかっていたので『救急車呼ぶ? 薬を買いに行く?』と聞くと、薬でいいと。そのときは治まり、今度病院に行きなさいよと話したのですが……」

この頃から昼夜逆転したようで、夜中に徘徊して、何度も幸子さんを起こすように。坂を転げ落ちるように母親の状態は悪化していった。