夫の収入は右から左へ、介護費に流れ…
「夫に、俺はいつまで働かなければいけないのかと問われると、死ぬまでよ、と答えています。義母の入院で貯蓄がなくなったので……」
東京在住で自営業の山内かおりさん(68歳・仮名)は、5年前に終わった義母の介護についてそう話す。義母は軽い認知症のほか、持病で入退院を繰り返していたものの、介護サービスを受けながら、88歳まで一人で暮らしていた。
ところが脳出血を発症し倒れているのをヘルパーが発見、救急搬送される。かおりさん夫婦は、義母が入院するときには好んで個室に入っていたことを思い出し、「意識が戻ったときのために」と、迷わず個室を選択した。
しかし1ヵ月経っても目覚めない。2ヵ月を過ぎる頃には、個室の差額ベッド代を含めた入院費は130万円以上にもなり、3ヵ月の転院の期限も迫っていた。意識不明状態の義母を自宅介護することもできないので、施設に入所させるしかない。東京近郊の介護付き有料老人ホームをなんとか見つけた。
入居一時金は500万円。すでに底をつきかけていた義母の貯金全部でも足りず、定年になったばかりの夫の退職金のほとんどを使って工面した。毎月の支払いは、居室料、管理費、リネン、オムツ代など約25万円。さらに口腔清掃の歯科費用や胃ろう代、ベッドのリース代で2万円。様態が急変して病院に搬送されれば、その分医療費が上乗せされる。
「義母の年金が月15万円だったので、残りの12万円を私たちで負担しなければなりません。夫の収入は右から左へ、介護費に流れていきました」
夫婦の暗黙の了解は、義母に関することは一人息子である夫が、それ以外はかおりさんが支えるということだった。夫婦が暮らす住居の家賃と生活費はかおりさんが支払う。夫は介護費と、義母が暮らしていたマンションの管理費や修繕積立金、光熱費等の固定費を払った。
当初は、これらの固定費は義母の口座から引き落とされていたが、ほどなく残高がゼロに。督促状が届くようになって、毎月6万円ほどを振り込んだ。自分たちの家賃、義母の施設費に固定費。実に夫婦で三重生活分の費用を負担していたのだ。
「貯金だけで何とかしようとしたら、減る一方なので焦ったでしょう。2人とも働き続けることができたのは幸いでした」