師匠のことが好きで入った落語の世界

考えて見たら、弟子入りしたのも落語がやりたかったのではなく、とにかく師匠のことが人間的に好きやったから。落語なんてきちんと聞いたこともなかったんですけど、師匠のことを見て「この人は絶対にエエ人や」と確信して弟子入りしたんです。そら、まぁ、ムチャクチャな流れですけど(笑)、それが全ての始まりでした。

よく言うてるんですけど、師匠が大工さんやったら、僕は大工になってました。たまたま落語家をされてたんで、自分も落語家になった。それだけのことなんです。

ほんでね、入門したら、想像していた以上にエエ人でした。とにかくやさしい。弟子と言うよりも、友だちみたいな関係性というか。逆に、悩み事を相談されることもありましたしね。それに対して、僕も「それは考えすぎやと思います」みたいなことを返して(笑)。「よう言うなぁ…」という話なんですけど、ホンマにそんな感じやったんです。

師匠のどこに惚れて弟子入りしたんですか?みたいなことを聞かれることも多々ありましたけど、これがね、言葉にはしにくい領域なんですよ。変な話ですけど、師匠がおまんじゅうを一口かじって「これ、美味しいから食べてみなさい」と渡されても、それを何の抵抗もなく食べられる。

そんなもん、他のオッサンやったら絶対に食べませんよ(笑)。でも、師匠のなら食べる。何なんでしょうね、適当な言葉が見つかりませんし、言葉にした瞬間、また味が変わってしまうのかもしれませんけど、前世から身内というか…。そんなつながりを感じる人でした。

師匠は前世から身内というか…。そんなつながりを感じる人でした。(撮影◎中西正男)