ビートたけしが「巨匠」に化けるきっかけになった映画

ジャワ島にあった日本軍の捕虜収容所を舞台にし、捕虜に対する扱いの苛烈さを描いている。坂本龍一は日本人将校ヨノイ。ビートたけしは軍曹のハラ。かのデヴィッド・ボウイが、抗わないけれど従いもしない静かな愛をたたえた捕虜・セリアズを好演。彼はクリスマスに独房から釈放されるも、やがてある事件の後に頭から下を地中に埋められ、衰弱死する。変な言い方だが、「世界一美しい生首」に見えた。

戦後日本に戻ったヨノイはすぐ処刑され、ハラも明日の死刑を待っていた。そこに、ジャワ島で共にクリスマスを過ごした「ミスター・ローレンス」がやってきて2人は思い出を語り合う。その時にハラが笑顔で口にする「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」がそのまま、あまりにも有名な坂本龍一によるテーマ曲のタイトルとなる。

坂本龍一とデヴィッド・ボウイのキスシーンばかりがやたらと取りざたされ、ビートたけしが「巨匠」に化けるきっかけになった映画。大島渚にとっては最大の興行的成功をおさめた作品だそうだ。 

当時は観に行くお金がなく、今回やっと映画を観たのだが、エロティックなどころか、人間の弱さ、卑劣さ、戦争や権力が人間をいかに狂気に駆り立てるか見つめた映画だった。

ホモ・セクシュアルを思わせる描写はそこそこにある。でもそれが何だろう。むしろ次々に起こる暴力事件の連鎖に対する、ボウイら西洋人捕虜の宗教的ともいえる態度が印象的だ。ある意味、人道的に愚劣な日本人を教育するという東京裁判史観だと思うが、そこは今回の論点ではない。