電話を切った河合に、山科が尋ねた。
「何だって?」
「警察官を向かわせますと言っていた」
「じゃあ、待つしかないな」
 日村は阿岐本を見た。
 逃げるなら今だと思った。
 通報から警察が駆けつけるまでの、いわゆるレスポンスタイムは、だいたい八分くらいだと言われている。
 姿を消すには充分の時間だ。だが、阿岐本は動こうとしない。
 焦った日村は言った。
「代表。そろそろおいとましてはどうでしょう」
 阿岐本がこたえた。
「話はまだ済んじゃいねえよ」
 その一言に凄みがあったのだろう。河合と山科は震え上がった。
 阿岐本に逃げる気はなさそうだ。日村は、絶望的な気分になった。暴対法と排除条例があれば、警察はヤクザに対してほぼ何でもできる。
 違法捜査だ何だと言ってくれる人はいない。だから、逃げるのが一番だと日村は思うのだ。
 だが、阿岐本は逃げない。
 駆けつけたのは、昨日も来た二人の地域課係員だ。年上のほうが言った。
「またあんたらか。ここで何してるの?」
 彼は巡査部長で、若いほうが巡査のようだ。