阿岐本がこたえた。
「田代さんに町内会の方を紹介してもらいまして、お話をしております」
「通報したのは、誰?」
 河合が言った。
「あ、私です」
「何かされた?」
「何かされたって……。こうして私たちを呼び出しただけで、脅迫みたいなもんでしょう」
「脅されたの?」
「だから、こうして面と向かっているだけで、脅されているようなもんでしょう」
「何か要求された?」
「話を聞かせろと言われました」
「何についての話?」
「わかりませんよ。話はこれからですから……」
「暴力は振るわれてないんだね?」
 すると、たまりかねたように田代が言った。
「暴力なんて振るうわけがない。ここで話をしていただけなんだ。警察を呼ぶなんて、どうかしている」
 巡査部長は田代を睨んだ。
「暴力団関係者に何かされたら、警察を呼ぶのは当然のことなんだよ」
「何かされたらって、この人たちは何もしていないよ」
「町内会の人たちを呼び出したんでしょう? これから何かを要求するのかもしれない。暴力団等の威力を示して何かを要求したら、れっきとした暴対法違反だ」
「あんたら、そうやって何もしていない人に罪を着せて検挙してれば、実績が稼げていいかもしれんが、普通に暮らしている者にとってはいい迷惑だ」
「暴力団員は普通に暮らしているとは言えない。あんたもだよ、住職」
「俺がどうした」
「近所から苦情が出ていることを忘れないでほしいね。今後の住職の出方によっては、こっちにも考えがあるからね」
「ほう……」
 田代が面白そうに笑みを浮かべる。「どういう考えだ? 聞かせてもらおうか」
「あの……」
 藤堂が言った。「通報したのは、早とちりだったのかもしれません」