巡査部長は、田代から藤堂に視線を移した。
「早とちりって、どういうこと?」
「あるいは、冷静さを欠いていたというか……」
「暴力団員に脅かされたんでしょう? 冷静でなんかいられないでしょう」
「いや、脅かされたというか……。住職に来てくれと言われてやってくると、そこにこの人たちがいたんで、すっかり驚いてしまって……」
 巡査部長が苛立ったように言った。
「暴力団員に、威力をもって強要されそうになった。これでいいね? そしたら、この人たちを検挙できるから」
 田代が言った。
「何もしていない人をしょっ引くのか?」
「今言っただろう。暴対法違反だよ」
 すると、河合が言った。
「何でもいいから、早くしてくださいよ」
 巡査部長は河合に眼を向ける。
「何でもいいってどういうこと? 通報したの、あんたでしょう? どういう被害にあったのか、はっきりしてくれないと、こっちも困るんだよね」
「暴力団に呼び出された。それでいいじゃないですか」
「こっちだってね、ちゃんと書類書かないと叱られるわけよ。一一〇番したんだよね。一一〇番ってね、たいへんなんだよ。俺たち地域課が駆けつけなきゃいけないし、関係各方面に無線は飛ぶし……。そういうこと、考えてもらわないと……」
 河合は驚いた様子で言った。
「え? 警察に通報しただけで、何でそんなことを言われなきゃならないんですか」
「だからね、ちゃんと書類にできるような被害の状況を詳しく知りたいわけよ」
「今言ったとおりですよ……」
 その時、外のほうから声がした。
 

 

今野敏さん小説連載「任侠梵鐘」一覧