バレンタインデー、撤退!
現在、私は2月14日に極力アポイントを入れないようにして、義理チョコを渡すことをやめている。これは仕事相手が男性の担当だった場合に備えた、リスクヘッジだ。当日に打ち合わせを入れようものなら、
(あれ? 小林さんからチョコレート、ある……?)
という、得も言われぬ雰囲気が漂ってしまうので、気まずい。それならフリーランスの特権をフル活用して、当日はPC作業に没頭。誰とも会わないのが一番だ。
そんなケチくさいおばさんも、30代前半で独立をした頃は、まだ義理チョコを用意していた。そこには感謝といった気持ちはなく「渡した相手が引き続き仕事をくれますように」という下心があったのだ。
ではなぜ私がバレンタインセールスに着手したかというと、とあるデザイン会社の女性社長の行動が見本になっている。彼女は毎年バレンタインの時期には、各クライアントの男性社員に多くの義理チョコを贈っていた。
「やっぱりね、小林さん。バレンタインはね、GODIVAなのよ! これもらったら特別感があるし、私のことを思い出してくれるでしょう?」
今から約15年前、GODIVAは今ほどカジュアルではなく、2月になるとお目見えするスペシャルスイーツだった。さすが昭和生まれのバブル育ちの社長、高級路線からズレることなく、GODIVAを選ぶとは抜かりがない。彼女からすると、2月14日というイベントを利用した、下心満々の営業作戦だったわけだ。
他にも影響された人物は『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)に登場していた、とある銀座のクラブのママ。彼女は客のために、大量の手書きの年賀状だけではなく、バレンタインも大量の高級チョコレートを用意していた。
「これも感謝の気持ちでございます」
ママはそう言っていたけれど、目的の本質は制作会社の社長と変わらない。そんな二人の先輩の行動に感化されて、独立後にチョコレートを配ってみたわけだ。このセールス術は、自分を記憶してもらうための種まきであると、理解していたがどうもしっくり来なかった。
なぜか。3月14日のホワイトデーには、お返しの品をくれる人もいたけれど、残念ながら私は生まれながらの塩分党。バカ高いスイーツには味蕾が反応しない。それを知っているのか、食事を奢ってくれる人もいたけれど、帰りに領収書をもらっているあたりが解せずにいた。その他、当然のようにお返しがない人もいるわけで。
投げて何かが即座にリターンするわけではない、営業作戦。そもそもせっかちな性格なので、この作戦は性に合わない。そんなわけで、バレンタイン放棄となった。やはり仕事は能力判断で勝ち取っていくしかないのだ。