それぞれの下心
その他のバレンタイン下心を並べてみよう。
例えば私。パートナーがいたら、新宿の伊勢丹に出向いて、普段では絶対買わない高級チョコレートを買って渡す。ただし、開封は我が家でのみとしている。ここには買った自分こそ食べたいという下心がある。彼のためというよりは、自分の好みと相談して、酒に合いそうな、ほろ苦チョコを選ぶイベントだ。
以前、飲み屋でよく会っていた、30代の自称・港区淑女。勤務している会社が外資系のため、よく海外出張があるという。ただこの出張、多くの社員が参加できるわけではなく、能力査定、及び上司のゴマ擦りも参加率に影響してくるという。要は社員としてのステイタスなのだ。
「バレンタイン? ウチの会社は禁止でもなく、女性社員の強制参加はなくなったんだよね。だからみんな渡さないという程(てい)になっているけど、それは表面上の話」
「じゃあ、ひとりで用意して渡すの? それも大変じゃない?」
「ううん、海外出張に選んでくれそうな上司を選んで、こっそり『いつもありがとうございます。差し上げるのは××さんだけですから、内緒ですよ』って渡すかなあ」
ふと「……それって、キャバ嬢のチョコ撒きと同じでは……」と言いたくなる気持ちを抑えた。これも下心だ。チョコひとつで海外出張に行けるのなら、彼女にとっては安い出費。まだまだチョコレートは、経済を回す力があるのだと、数々の下心から感じる。参加したい人はすればいい、そんな日でいいと思う。ただもしこのエッセイを読んでいる人に、社内や部内のバレンタイン費用徴収係がいたら、今年はぜひ見直してあげてほしい。冒頭でも書いたように、納得のいかないまま金を支払うのは、無駄なストレスだから。