デビューしたての五木ひろしは、すぐに大スターとなり、昭和の大スターたちと次々に共演を果たすこととなる。スクリーンを通してしか知らなかったスターと肩を並べて、芸能界を生きてきた五木ひろし。今回も、前回に続き、石原裕次郎との思い出を語る。歌手として2人だけが出演する特別番組をきっかけにして知り合い、続く交流の中で、五木ひろしが感じたこととは―――。(構成◎吉田明美)

前回はこちら

石原裕次郎さんの歌

僕は石原裕次郎さんのあの歌声に、いつも大きな憧れを感じていました。あんなに語るように軽く歌えて、ムーディーに自分の世界を表せる人は、裕次郎さんを置いてほかにいないと思っています。だから、裕次郎さんの歌を歌うときは、うまく歌おうとか、一生懸命歌おうとしてはいけないんですよ。

裕次郎さんはピッチがよかったんです。音程ですね。あれは天性のものだと思います。彼は俳優のときのセリフもそう。声を張らずに伝わる、生まれながらのいい声を持っている。唯一無二の声ですね。

僕は、裕次郎さん亡きあと、NHKを含めて、いろいろな番組で裕次郎さんの歌を歌っています。裕次郎さんの奥さまのまき子さんが僕のファンでいてくれて、『思い出のメロディー』で石原裕次郎さんの特集があるときなどは、必ず僕を指名してくれるんです。

もちろん裕次郎さんの歌はすべて歌えます。裕次郎さん自身はたぶんカンペがないと歌えないけど、僕はちゃんと歌える。(笑)でも、うまく歌おうとはせずに、できるだけ裕次郎さんの雰囲気を壊さないようにと心がけます。「裕次郎さんの歌は五木さんしか歌えない」と言ってくれる方もいます。

昭和の名曲だけに、編曲しようとする人もいるのですが、それはやってほしくないですね。別の歌になっちゃうから。