「観光」を謳う京都のいちばんの資産とは

京都は商業地と住宅地がきわめて近いことが特徴で、それが京都のそもそもの魅力になっています。名所に行く途中に、人々が日常生活を営む風情ある路地や町家が、ご近所づきあいというコミュニティとともに残っているのです。

しかし、地価の上昇は周辺の家賃の値上がりにつながります。土地を持っている人であれば、固定資産税が上がります。観光客は増えていても、京都市は高齢化が進んでいますので、住民はそのような変化への対応力を持っていません。家賃や税金を払いきれずに引っ越す人が相次げば、町は空洞化し、ご近所コミュニティはやがて町並みとともに崩壊していくことでしょう。

「観光」を謳う京都のいちばんの資産は、社寺・名刹とともに、人々が暮らしを紡ぐ町並みです。そしてそれを守るという意味では、観光産業の「マネージメントとコントロール」の姿勢が、切実に求められるようになります。

古い町並みは、純粋な市場原理に任せていると、たちまちダメになります。古い町並みが消失したら、観光地としての京都の魅力も失われてしまう。

実際、欧米の多くの歴史都市は、はるか以前にそのような危機感をもとに、乱開発に規制をかけてきました。残念ながら、京都を始め、日本のほとんどの町は生ぬるい景観条例はあるものの、観光ラッシュの時代に対応できるシステムができていません。

「立国」か「亡国」はマネージメントとコントロール次第です。文化都市の歴史と観光産業のニーズを踏まえ、バランスのとれた法律があれば、町並みの劣化と不動産急上昇はある程度防ぐことができます。

しかし、現在の京都では残念ながらそれができていないので、観光産業における自身の最大の資産を犠牲にしていると言わざるを得ないのです。

現在の京都は、観光産業における自身の最大の資産を犠牲にしている(写真提供:Photo AC)

※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ) 

右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都、富士山をはじめとする観光地へキャパシティを越えた観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況になっている。本書は作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏が、世界の事例を盛り込みながら、建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、オーバーツーリズムから生じる問題を克服せよ!