保護者からの逆風

しかしその一方で金八先生の指導で子どもたちの中に変化が生まれていく、感動の物語がテレビで放送されるたびに、現場の教師の間でやや奇妙な反響が感じられるようになりました。

僕の肌感で言えば、新シリーズの放映が始まるたびに学校が荒れるという感覚です。

ドラマは多くの人たちの共感を呼び、教育への関心も高めてくれたはずなのに、現場で働く教師への生徒、保護者からの逆風はますます強くなっていったのです。

このドラマは「学校は抑圧的な場所」で「先生の多くは、子どもにとって敵」であるという構図をつくりあげてしまったのだと思います。

そして、「金八先生のような先生こそ、子どものことを考えている正義の味方だ」「金八先生のように昼夜問わず問題に立ち向かってくれる教育熱心な先生が、教師のあるべき姿だ」とする風潮ばかりが高まっていきました。

『校長の力-学校が変わらない理由、変わる秘訣』(著:工藤勇一/中央公論新社)

金八先生は熱血漢で正義漢の役柄です。現実の教育現場ではありえない、ドラマ的な人格です。彼自身が人権的な見地からして問題のある行為をたびたび行っても、「ドラマだから」「フィクションだから」と許容されて見逃されていきます。その一方で、他の教師たちはどうだったでしょう。

「生徒たちの問題に対して消極的で、自分の体裁や保身ばかり気にしている」「教師の多くは、ことなかれ主義」「教師たちが信奉する管理的な教育が悪い」、そんな描かれ方だったように感じてしまいます。