ライセンス契約は作家の意思を尊重しながら

ライセンス契約を結ぶ際は、作家自身が納得して決めたか、ということが重要です。家族でしっかり話し合えるよう、契約までの確認作業には一定の時間を設けています。ある人は、得た収入で「好きなアイドルのコンサートに行く」と言っていました。確定申告をする人もいて、収入源があれば家族や普段お世話になっている施設の人にも安心感が生まれるし、作品のデータを運用していくことで、ノルマを設けた個展開催や作品制作を避けることもできます。彼らには彼らの時間の流れやルーティンがあるので、それぞれのペースで、自発的に作品が生まれることを大切にしたい。企業から作風に対する要望がある場合には、作家の意思を尊重しながら意向を伝えるようにしています。

色彩豊かな衣笠泰介さんの「ブダペストで朝食を」。衣笠さんは商業空間や公共施設におけるプロジェクトの依頼も多い(写真提供◎ヘラルボニー)

誤解してほしくないのは、障害のある人の作品だから優れている、と考えているわけではないということ。作品の選定はきちんとしたいので、金沢21世紀美術館のキュレーターでもある黒澤浩美氏が企画アドバイザーを担当しています。

ヘラルボニーがアートプロデュースするホテルマザリウム(盛岡市)の一室(撮影◎千葉裕幸)

アートの分野で一定の成果を出せたいま、アートに関心がない人にも就労の場をつくりたいというのが今後の夢です。兄がそうであるように、誰もが絵画が得意なわけではないですから。意味を持たない「ヘラルボニー」という言葉が、いつか福祉を意味したり、社会を繋いだりする言葉になればいいなあ。障害のある人は差別や支援の対象ではない。かけがえのない異彩だ、という意識をこれからも根づかせていきたいです。

 

2022年からは盛岡市の百貨店カワトクの1階に店舗を構える。(撮影◎千葉裕幸)