荒廃、喪失、再生への祈りのドラマ
そして、どう恋路が進むのかと気になったところで、黒澤明『生きる』やギャスパー・ノエ『アレックス』のような時間操作が途中でなされる。
長編なら時間の逆行はエフェクト作用やドラマ内の説明により、スムーズに観客に伝わるけれど、その説明をするいとまもない短編では勇気がいる。脚本段階からの狙いだったようだが、福士はエフェクトに頼らず、俳優の力で時間遡行を敢行する。
過去と現在を区切るスターター伊澤彩織の凄みは必見だ。彼女が缶チューハイをあおり、タバコを吹かして三羽と会話する場面だけで全てが理解できるというのは驚きだ。けれど、見る側は福士が俳優陣の演技力を信じる姿勢に感動している暇も与えられず、すぐさま荒廃、喪失、再生への祈りのドラマに連れ去られる。
これまで絵を描く様は『ミステリアス・ピカソ 天才の秘密』や『美しき諍い女』などの映画が描写していたが、ラストの清水尋也の姿は嘘が限りなく存在せず、ただ観ることで感情を動かされる。役を超越して「人がキャンバスに向かうこと」を示す、素晴らしい場面だ。
福士作品は短編ながら作品の構成の冒険、自然で言葉少ない会話、そしてクライマックスのキャメラ、演出、俳優の充実において非常に完成度の高い作品になっている。
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仲里依紗監督「撮影/鏑木真一」
3/15(金)午後11:30
福士蒼汰監督「イツキトミワ」
3/22(金)午後11:30
森崎ウィン監督「せん」
3/29(金)午後11:30
千葉雄大監督「ハルモニア」
3/15(金)午後0:30