仲里依紗監督『撮影/鏑木真一』
現代日本に怪人という者がいるとしたら、ロバートの秋山竜次だろう。かつては殿山泰司、藤村有弘がいて、竹中直人が引き継いだような、映画やドラマの本筋を忘れさせてしまうような存在感のキャラクターだ。その秋山が主演した作品が本作である。仲里依紗の趣味、いや旬の怪人をジャンル映画で即使おうという意志は“買い”だ。
のっけから謎的要素が満杯。秋山を舐めるように撮影すれば、なぜかドラマに広がりが出来てしまう不思議さ。そんな出だしだ。秋山演じる鏑木は週刊誌カメラマン。同僚は寛一郎扮する若手記者の谷(『せかいのおきく』の好演、難解な舞台『カスパー』も演じた実力派)。
彼とスクープの張り込みを行うのだが失敗。時田編集長(杉本哲太)に叱責される。この組み合わせは、秋山の個性を演技派に転用させるようで効果的だ(心理的な演技はほぼしてないのにも関わらず、だ)。
鏑木はかつて超感覚を持った凄腕カメラマンだったが、2年前にスクープした女優の自殺事件でトラウマを負ってしまったのだ。それを知る谷も時田も鏑木には同情的である。しかし、契約更新も危うい鏑木は心理的に追い詰められる。そこへ謎のLINEメッセージが届く。鏑木はメッセージに誘われスクープを単独で狙うが……。
黙々とスクープ写真を撮り続け、謎の発信主に追い込まれる秋山竜次の演技は、それだけでスペクタクル。パブリックイメージの怪人が逆に恐怖に苛まれるわけなので、ホラー要素が濃厚ながら独特の笑いも生まれる。
特異なキャストでストレートなモダンホラーを撮った仲里依紗の演出は撮影監督・山崎裕の確かな表現力にも助けられ、じつに誠実に観客を喜ばせようと努めている。なかなか昨今の日本映画界にはいない心構えの持ち主だ。
脚本の山咲藍もビシッと短編ホラーを作るんだ、という流れを作っている。つい、仲監督に、あと3本短編ホラーを製作してほしい、それでオムニバス公開してくれたらと思ってしまう秀作だ。