幕切れはあっけなく訪れた

この一件で、ようやく妹が本格的に説得に動いてくれ、ほどなく妹から「もう運転しないって言ってくれた」と連絡が来た。ところが翌朝、気がついたら車がないではないか。父の姿も見えない。

慌てて家にかけつけた妹は、戻った父に「もう運転しないって言ったよね」。義弟が「免許証を預からせてください」と手を出すと、父は「だめだ!」と叫んで2階に逃げ、自室のドアをバタン。それを二人が追いかけ、「渡して」「だめだ」と怒号が響く。私が様子を見に行くと、父は服の中に免許証を入れて「絶対に渡さない」と叫び、恐ろしい形相でベッドにごろごろ転がっている。

その後、父は認知症の中でも、ピック病の可能性を指摘され、認知症専門医を受診した。ベテランの男性医師が「車をこすったら運転のやめどきですよ」と笑顔でさらりと言うと、父は「もうやめます」。そして「もう運転はしません」と続けた。

これまでとのあまりの違いにあっけにとられた。担当医が女性だったからなめていたのか。娘の運転をやめろ攻撃にほとほと疲れたのか、事故で自信を失ったのか──。父が納得した理由は、結局わからない。その後すぐに、車を処分する手続きを行った。

 

あれから2年……改めて振り返ると

父が運転をやめてから2度目の秋が巡ってきた。もっと早く解決する方法はなかったのだろうか? 最初に認知症と診断された時、医師が「認知症患者は運転してはいけないと法律で決められている」と本人に説明していたら……。納得しない場合、手続きのことも説明してくれたら、父もさほど抵抗しなかったのではないか。

プロの言葉の影響力は大きい。今なら事前に、認知症患者の運転にどう対応しているかを確認してから受診する医師を決め、そこに父を連れて行くことに全力を注ぐだろう。