認知症の父が、毎日車で出かけていく。運転をやめさせたい。やめさせなければ。筆者は1年かけて闘った。(文=田中亜希子)

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初めて道筋が見えた

認知症の父に運転をやめさせる。そのことになぜこれほど奔走しなければならないのだろう。助けになる方法が見つけられないのがこたえた。

活路を見出したい一心で神経内科の別の医師の診察に連れて行くと、ベテラン女医がひざ詰めで説得してくれた。「自分のことは自分が一番よくわかります」と、父がいつものセリフを言うと、「自分のことがわからなくなるのが認知症なんですよ」と返す。

長時間の説得にも納得しない父を先に診察室から出すと、先生は言った。「確か、警察関係で強制的に止める方法があったはずです」。

帰宅してすぐに調べると、公安委員会の管轄のようだ。さっそく県の公安委員会に電話すると、回されたのは、先日もかけた運転免許センター。今回は「適性相談室」という部署だった。

事情を話すと担当者は、父がすでに認知症の診断を受けたかを確認し、「認知症と診断されたら、運転してはいけないと法律で決まっています。いったいどちらの病院がそのようなことを?」と、苛立ちを隠さない。ここで初めて「認知症の人は運転してはいけない」とはっきり言われ、涙が出るほど嬉しかった。

道路交通法第103条には、「認知症と判明したら、公安委員会は免許の取り消しや停止ができる(要約)」と定められている。

日本医師会によるガイドラインでは、医師は認知症患者が運転すると知った場合、その症状が運転に支障をきたすおそれがあることを患者に丁寧に説明し、運転をしないよう指導することになっている。それでも運転をやめない場合は、公安委員会に届け出ることができるのだ。すると公安委員会は、審議や本人への聴聞などを経て、妥当なら免許取り消しの手続きに入るというわけだ。