医師や家族が二の足を踏む理由

そんな手続きがあったなら、もっと早く知りたかった。どうして誰も教えてくれなかったのか? 不可解すぎて、「権限がない」と言い続けた女医を訪ねた。すると彼女は青くなり、本当に知らなかったと繰り返すばかり。その病院では本人の自発的な免許返納を促すよう教育されるのだという。

考え方の相違はあろうとも、自らの専門分野において、患者に関わる法律を知らないのはプロとして無責任ではないか。そのほか、私の周りのケアマネジャー、友人知人を含めて、この法律のことを知る人はいなかった。

認知されにくい理由は、思い当たる。医師の公安委員会への届け出は任意であること。そして本人の意志に反して進めた場合、トラブルが多発すること。恨みを買うこともあるから、医師や家族も二の足を踏むのだろう。

しかし父にはこの手続きしかない。「医師に頼もうと思う」と妹夫婦に言ったところ、「お父さんに黙ってそんな強引なこと!」と大反対された。

でも何かあってからでは遅いのだ。私は一人でも決行しようと思った矢先、父がスーパーの駐車場で停車中の車に接触する事故を起こした。この日もなかなか帰ってこない父に何度も電話したところ、ようやく白状したのだ。

75歳以上のドライバーが事故を起こすと、臨時の認知機能検査を行うよう道交法が改正されたのに、父はなぜかこの時、検査を受けた形跡がない。調べると、駐車場に停まっている車にこする程度では、法律は適用されないという。