仕事という支えを失って
池上 実はこの1年、かなり落ちこんでいたの。去年は何作品も決まっていた舞台が、緊急事態宣言などでほぼ中止になってしまった。この先どうなるんだろうと、不安が膨らむいっぽうで……。
東 夏あたりに、「舞台がなくなっちゃった」という電話をもらったよね。
池上 電話で話せるうちは、まだよかったの。そのうちどんどん気分が落ちて、誰とも話せなくなってしまった。ちぃちゃんにはパートナーも猫もいるけれど、ほら、うちは娘が結婚して出ていって、誰もいないから……。ただただ、家に引きこもっていた。
東 ひとりでつらい思いをしていたんだね。仕事がない不安は、とてもわかる。私も十数年前に所属事務所を辞めた時、仕事がすべてキャンセルになって。自分で選んだ道とはいえ、「これからどうなるんだろう」と毎日恐怖だった。仕事があるから頑張れるのだけど、それが奪われると、自分を支えているものが一気になくなってしまうんだなと思ったりもして。
離婚と「空の巣症候群」、私の大きな危機
池上 私は14歳で仕事を始めて、26歳で結婚、離婚、そして子育てと、ひたすら走り続けていたから、正直悩んでいる暇もなかったの。でも仕事がなくなって考える時間ができると、「あの時、なんであんなことをしたんだろう」と、過去を振り返っては悔やんだり落ちこんだりすることばかりで……。
東 たしかにぽっかり時間が空いた時って、ろくなことを考えない。危ないよね。
池上 振り返ってみると、大きな危機は過去に2回あった。1回目は29歳の時。離婚直後の1ヵ月は、毎晩一升瓶を空けていたもの。でもそばで眠っている2歳の娘を見て、「私がこんな状態では娘は生きていけない」と気づいて、その日からお酒をすっぱりやめたの。アルコールで発散させても、なんの解決にもならないと気づいたから。
東 その切り替えがすごい。今はもうほとんどお酒を飲まないものね。